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11/02/2004

Clammbon

 クラムボン『Imagination』のプレスリリース用原稿。03年執筆。

 印象的な光景がある。

 今年7月13日。クラムボンにとって2度目の日比谷野外音楽堂ライヴでのことだ。

 コンサートも中盤にさしかかり、クラムボンの音はどこまでも澄んだ深海の底のようにアンビエントな表情を増していく。そして気がつけば場内の照明がすべて落とされ、周囲のビルの窓から漏れる明かりだけがステージの上をわずかに照らしている。そこに流れてくる音。歌のないインストゥルメンタルだったが、ある意味で歌以上に多様なニュアンスと歌心を伝えていた。

 ステージの上にはメンバー3人とそれぞれの楽器、必要最低限の機材類しかない。派手な舞台装置も、照明類も、ヴィジュアルもない。暗闇の中降りしきる雨、ゆらゆらと立ち上っていく無数のシャボン玉だけが舞台効果だ。生身の肉体、生身の歌、生身の音。裸になったクラムボンのヴァイブレーションが、会場をそっと包んでいく。その体験は、息を呑むほど美しく柔らかくディープで、スピリチュアルでさえあった。それはクラムボンが現在どこにいて、これからどこへ行こうとしているのかを、端的に示していた。

 そのインストゥルメンタル曲が、その時点ではまだ完成していなかったニュー・アルバム『Imagination』に入っている「おかえり」であることを知ったのは、つい最近のことである。この曲は1曲目の「いってらっしゃい」と対になっており、両曲がアルバムの最初と最後をサンドイッチのようにはさみこんでいる。いわばこれはクラムボンを巡る旅である。だが非日常への飛躍ではなく、日々の通勤や通学のようにさりげない。驚くほど豊かで多彩になった音楽的語彙を、これ見よがしにならず披露しながら、最後にたどり着いた境地は――それがあくまでもヴァーチャルなものであるとしても――身近に寄り添う家族のように自然で、暖かい。さまざまな自然音やノイズを織り込んだアブストラクトな音の連なりは、そのまま日常のさりげない景色を優しく謙虚に描き出し、その余韻はいつまでも脳裏に焼き付いて離れない。

 クラムボンにとって5枚目のオリジナル・アルバム『Imagination』。なんとも簡潔で、ともすれば凡庸にとられかねない言葉をあえてタイトルに選んだ意図は、もちろん明白である。10のものを10語るのではなく、2つか3つ語ることで10を「想像」させる。おそらくはそれが、彼らが本作に込めた思いだ。

 クラムボンにとって一大転機となったサード・アルバム『ドラマティック』(01年)。ここで彼らは「何を語るか」だけでなく、「どう語るか」ということに対して、自覚的になった。歌の抑揚や演奏のニュアンスやメロディの起伏やアレンジの構造だけでなく、サウンド全体のテクスチュアを重視する、という方向性をとり始めたのである。とはいえ、いまとなってはやや身振りがおおげさで、装飾過剰に聴こえてしまうことは否定できない。想像力で遊ぶ余地が少ない、と感じられるのだ。以後彼らの音楽は、ここで獲得した成果を出発点として、よりナチュラルでシンプルでイマジネイティヴで作為のない、いわば人間の体温のする地点へと向かっていく。ZAKとの共同作業となった既存曲の再構築作『リ・クラムボン』、アダム・ピアースやアンディ・チェイスと組み、作者クレジットを数字で記して記号化した(作品をアーティストのキャラクターに従属させるのではなく、切り離し自立させるため)『iD』を経て、到達した現時点での最高値が、『Imagination』なのだ。

 ところで、こんなエラそうなことを書いているぼくは、じつは1年ほど前の新宿リキッド・ルームでのライヴで彼らの素晴らしさを「再発見」した、いわば遅れてきたファンである。プロパーの音楽評論家としてまったく情けない限りの乗り遅れぶりだが、こんなぼくでも優しく受け入れてくれるクラムボンの世界は、やはりさりげなく優しく自然体で、だが貴重なものだと思うのだ。まだメンバーとは一面識もないんですけどね。

2003年9月28日 小野島 大

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