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11/02/2004

Gang of Four

 HMVフリーペーパー掲載。「不滅のディスク」というコーナー用に書いたもの。03年執筆。

 いきなり個人的な話で恐縮だが、このギャング・オブ・フォー(G4)のファースト・アルバム『エンターテインメント!』は、これまで聴いた数多いロック・アルバムのなかでも、衝撃度という点では5本の指に入る作品である。いま改めて聴き直してみても、当時受けたインパクトの大きさが生々しく思い起こされ、とても平静な気持ちではいられない。それは一瞬の衝撃がすべての既存の価値観や常識や美意識を打ち壊し、時代が音を立てて変わっていくその刹那をリアルタイムで目撃するスリルと完全に地続きだったのだ。それは若者の力で世界を変えることができる、という希望――幻想だったのかもしれないが――を持てた、おそらくは最後の瞬間の輝きだったのである。

 G4は、70年代のイギリスのパンク・ムーヴメントから生まれてきたバンド。リーズ大学の同級生だったアンディ・ギルg、ジョン・キングvoを中心に、77年に結成された四人組だ。78年末にインディからシングルを発表、これが評判となってEMIと契約、翌79年に本作『エンターテインメント!』でショッキングなメジャー・デビューを飾る。

 本作の、G4のインパクト、そして魅力の源は、なによりまずギルのギター・プレイにある。それまでのトラディショナルなロック・ギターのスタイルにありがちな、中途半端な情緒性や湿った感情移入がまったくない。冗漫なインプロヴィゼーションも単弦のメロディ弾きもチョーキングを多用するような泣きのプレイもない。ひたすら乾いたノイジーでメタリックなリズム・カッティングを、まるで掻きむしるように弾くスタイルは、およそそれまでに聴いたことのないものだった。スタイル的に言えば、ドクター・フィールグッドのウィルコ・ジョンスン直系と言えるが、より直接的で攻撃的。キース・リチャーズやピート・タウンゼントからミック・グリーン、ウィルコと続くイギリスのビート・ギタリストたちの伝統の末裔とも言えるかもしれないが、まるで目の前に白く光る真剣の切っ先を突きつけられたような尋常でない緊張感は、
ギル及びG4が、そうした伝統の土壌から完全に切り離された新世代であること、あるいはそうありたいという強い決意を示していて、当時の実感としてはまったくもって新たな価値観がそこに生まれた、という印象だった。それはつまり、パンクというビートルズ以来の革命の精神を受け継いだ者による、完全に新しい秩序の登場だったのだ。

 ソリッドでストイックなファンク・ビートを叩き出すリズム隊もさることながら、ギルのギター同様に衝撃的だったのは、空前の不況にあえぎ迷走していた当時のイギリスや、アメリカの政治・社会状況を鋭く告発していく歌詞である。アメリカ先住民と、侵略者の象徴であるカウボーイが握手するジャケット、あるいはインナー・スリーヴのライナーに添えられたコメントの数々は、彼らが高い政治意識を持った政治的なバンドであることを示している(そもそもバンド名は権力闘争を繰り広げた中国の「四人組」からとっている。アルバム・タイトルはもちろん反語だ)。音楽を通じてメッセージを発し、悪逆なるものを告発し、世界を変えていく。彼らは青臭くはあるが理想に燃えた若者だった。そして同じように自分たちの力で世界を変えてやろうと夢想した若者は何万、何十万といた。それがパンクであり、ニュー・ウエイヴだった。音楽だけでなく、ありとあらゆるユース・カルチャーに深刻な影響を与えたパンク/ニュー・ウエイヴ・ムーヴメントのもたらしたものは、簡単には計りきれないほど大きい。

 もちろん、そうしたマキシマムなレベルまで語らずとも、彼らのもたらした音楽的影響もきわめて大きい。おおざっぱに言ってしまえば、G4以降のノイジーでオルタナティヴなギター・バンドの大半は、なんらかの形でギルの影響を受けている。「ギャング・オブ・フォーのような」という形容は、そうしたバンドを褒めるさいの常套句のように使われたものである。その影響は、直接/間接的に、たとえば現在のミッシェル・ガン・エレファントのようなバンドにまで及ぶ。またレッド・ホット・チリ・ペッパーズが初期G4に大いにインスパイアされ(フリーなど、本作でのデイヴ・アレンbに、ベース・プレイのすべてを学んだ、とまで告白している)、ファースト・アルバムのプロデュースをギルに頼んだことは、あまりに有名な話だ。

 きわめてスリリングでテンションの高いアルバムだが、しかし、サウンド・プロダクションという点では決して完璧ではない。それまでロクなレコーディング経験もないのに、パンクの自主独立のモットーを貫き通すために完全セルフ・プロデュースを敢行、プロの手を経ないで作られたガレイジ・パンク/ファンクは、スカスカのペラペラ。シンプルで隙間だらけで無愛想きわまりない。だが過剰なドラマ性を排除し、贅肉を削ぎ落とした骨組だけのリズムが軋みながら疾走していくようなサウンドは、狂っていく世界、荒涼たる現実の反映そのものであり、そのサウンドの衝撃力を増し、異様なほどに生々しいインパクトを与えているのである。

 しかしこの衝撃は、長く続かなかった。なんだかメンバーにもよくわからないうちにできてしまったという、いわば偶然の産物だったファースト以降、彼らのレコーディングや音楽上のスキルは確実にアップしていったが、それとともに当初のインパクトは、見る影もなく色あせていく。ギルのギターだけが突出していたがゆえに衝撃的だったアンサンブルは、バンドとしてのバランスを考えるようになって、瞬く間にその個性を失った。83年の4枚目のアルバム『Hard』を最後にバンドは解散、その翌年ギルはレッド・ホット・チリ・ペッパーズのプロデュースを手がけるわけだが、往時の鋭さは微塵もなかった。

 まさに一瞬の閃光のようだったG4の輝き。だがその眩いほどの光は、この音盤にしっかりと刻みつけられている。そして彼ら以上にインパクトのあるギター・バンドに、その後ぼくは出会ったことがない。

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