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11/09/2004

Jim Foetus

 2度目の来日前に書いたコラム。スタジオボイス掲載。96年執筆。

 ときどき、「別れ話を持ち出された男(62歳)が逆上して相手の女性(40歳)を包丁でメッタ刺し」などというニュースを聞くと、ううむ人間の煩悩はいつまでたっても消えないものなのだなあ、と思う。養老院の恋愛沙汰が一番ややこしくてドロドロしてるという話はよく聞く。

 人生キレイ事じゃ済まないのだ。平均寿命が延びるのと比例するように、世の凡人どもの生臭い欲望は、ますますその強烈さを増しているように思える。生きている限り欲しいものは沢山ある。詰め込んでも詰め込んでも腹一杯にならなくて当然。歳をとったからといってそう簡単に諦めてしまうわけにはいかないのだ。

 で、音楽界にもどうにも諦めの悪い男がひとり。ロック・シーンの怪物とも妖怪変化とも言われるジム・フィータスその人である。

 この人、デビュ-してすでに15年近い歳月がたつ。パンク以降の加速された時間軸をベースに、テクノ、ヒップホップ、クラシック、ジャズ、ブルースとあらゆる音楽要素をぶちこみ、メッタメタに切り裂いてかみ砕いたあとブラック・ホールなみに高密度圧縮した、血管のブチ切れそうなハイ・テンションの音塊を、まるで全盛期の江夏や伊良部のように容赦なく投げつけてくる凄まじいばかりの迫力は、ポスト・パンク以降中だるみ状態にあった英米のロック・シーンを、まるで伊勢湾台風のごとく蹂躪していったのである。

 だが、出世作『ホウル』からも既に10年がたっている。普通どんなミュージシャンでも10年もたてば角がとれ、丸くなる。デビュ-当時「凄い」と言われた狂気のミュージシャンが、いつの間にかフツーの人になってしまい「枯れた味わい」などと体のいい形容で神棚に祭り上げられてしまう例は、スワンズあたりを持ち出すまでもなく日常茶飯事だ。

 だがフィータスはちがう。昨年久々に発表された新作『ギッシュ』は、10年前にも増して「凄い」作品だった。まるでパワーもテンションも落ちてないどころか、より脂ぎって、一層強烈で生臭い、まるで生ニンニクを10個丸かじりしたような剥き出しの欲望とギラギラした精力をプンプン漂わせながら聞き手に襲いかかってくるのである。まさに渋さ知ら
ズとはこのことだ。

 一部では熱狂的な支持を受けているこの男だが、しかし商業的成功をとはまったく無縁である。『ギッシュ』は大メジャー・ソニーからの一作だったが、案の定まったく売れず、たった1枚で御払い箱となってしまった。しかしアメリカではミニストリー、ナイン・インチ・ネイルズといった、フィータスのフォロワーたちが爆発的な成功を収めている。どうやらフィータスにはそれがガマンならないらしい。

 なんでもフィータスはナイン・インチらの悪口を会う人ごとに言い回っているという。おまけに、たまたま日本でのウケが良い弟子筋のPIGの陰口まで叩きまくっているというからタチが悪い。ゲに恐ろしきは男のシット、である。オトナになるとか達観するとか枯れるとか諦めるとか、そんな境地とはまったく無縁。涙が出るほどクレイジーでガキっぽくて根性が悪くて、そして人間的なやつである。

 そのフィータスが、なんと10年ぶりに来日。初来日はフィータスひとりがテープ演奏をバックに歌うカラオケ大会だったが、今度はバンドである。どんなライヴになるか、考えただけで暑苦しい。それにあわせ、インディから最新ライヴ『ボイル』が出る。相変わらずフィータスは野獣のように吠え、わめき、のたうちまわり、毒と呪詛を吐きつづける。


 だが考えてみれば人間としてこれほど正直で率直な男はほかにいない。世間一般の常識や良識など関係なく
欲望のままに暴走しまくる生きざまは、60過ぎて色恋に狂い刃傷沙汰を起こす老人たちにも似て、あまりに崇高で美しい。オレもガンバロ、ともうすぐ不惑を迎える筆者は思うのだった。

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