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11/02/2004

Mo'some Tonebender

 アルバム『Trigger Happy』発売時に『Flyer』誌に書いた原稿。03年執筆。

 誰も予想だにしなかった恐るべき進化と革新……ひさびさにぼくは震えながらこの原稿を書いている。もちろん、モーサム・トーンベンダーの新作『Trigger Happy』のことだ。彼らはふくれあがったこちらの身勝手な期待と欲求をほんの軽く一呑みしてみせたばかりか、これまでの彼らが小さく、幼く見えるほど巨大な表現主体へと成長していた。そのあまりに急激な進化には、なにか不吉なものさえ感じてしまう。

 意表をついたアンビエント音響ノイズに始まる全10曲は、まるで都市の闇をフル・スロットルで駆け抜けるF1マシーンのように美しく無駄がない。メタリックでクールなサウンド・テクスチュアは、鉄とコンクリートとアスファルトの手触りだ。歪んだ不協和音の応酬は尋常ならざる緊張感を生み、クールに研ぎ澄まされたビートが矢のように解き放たれ聴き手を深々と刺し貫く。小音量で聴けば思いのほか繊細で奥深いディテールを見せるサウンドスケープは、大音量になると突如表情を変え、狂気を秘めたクールな暴力装置そのものとなる。アッパーからダウナーまで、ピアニシモからフォルテシモまで、天上の高みからどん底まで激しく往還する振幅の激しさを秘めながら、すべてが一体化したリニアな衝動がすさまじい勢いで投げつけられる。

 この、胸の奥深くがざわざわと波立ち、全身が総毛立つようなスリルは、もう何年も味わったことがない。10年一日のごとき不毛なリサイクルを繰り返すだけの最近の様式化した英米ロックなど逆立ちしても及ばない生々しいインパクト。彼らは単にロックの初期衝動を無軌道にまき散らすだけの単純で素朴なバンドではない。都市の民俗音楽としての屈折と絶望と空虚と、それを凌駕する熱量と意志を持っている。もがきのたうちまわりながら、それでも前に進むことをやめない。

 たとえば「Rainy」や「Candy & Friday」のような、これまでに彼らのイメージを覆す美しい曲でも、アルバムを貫くテンションの高さと、強烈なスピード感は一向に衰えない。それは彼らの精神が弛緩していないからだ。人間関係、生き方、演奏態度、すべてがダイレクトに直結してしまう緊張度の高い演奏だから、アーティストもまったく気を休めることができず、聴き手もまた息を詰めて見守るしかない。

 これまでの彼らは、ライヴのパワーとエネルギーをいかにレコードという形に焼き付けるか、というテーマに腐心し、それは前作で達成された。となれば、次の課題は「ライヴを超える極限の音楽体験」しかない。そしてそれは、いともあっさりとここに達成されたのである。モーサムのライヴの壮絶なまでの疾走感はそのままに、決してライヴでは体験しえない錯綜した重層的サウンド・プロダクツの完成度、そして衝撃度はすごい。

 ここまでぼくはあえて触れずにきたが、ある意味で今作の最大な聴きどころは、フリクションの「Big-S」のカヴァーである。日本のパンク/ニュー・ウエイヴの偉大なオリジネイターであるフリクションは、リーダーであるレックの強靱な意志とともに、いまもなお後続が一向に超えることのできない巨大な壁でもある。モーサムは79年に発表された彼らのデビュー・シングルのB面曲をとりあげ、この偉大な先達を乗り越えようとしている。こんなバンドはほかに誰もいなかった。ぼくはまるで、フリクションを初めて聴いたティーンエイジャーのころのように興奮している。もしかしたらぼくらは、歴史が変わる瞬間に立ち会っているのかもしれない。

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