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11/09/2004

Pearl Jam

96年の初来日時のライヴ評。ワッツインエス掲載、だったかな?

 今から3年前、ブレイクする直前のパール・ジャムをボストンで見たことがある。日本でいえば渋谷クアトロとオン・エアの中間ぐらいのクラブで、ぎっしり満員の客を相手に、彼らは演奏していた。ディテ-ルの記憶はないが、当時チャートを急上昇していたファ-スト・アルバム『テン』の寝ぼけたようなサウンドからは想像もできないほど、アグレッシヴでソリッド、パワフルなロックを彼らはやっていた。その凄まじいエネルギーの奔流にぼくは圧倒され、これなら人気が出て当然だと思った。しかしまさか、その後彼らがアルバムを全世界で1千万枚以上売り尽くし、アメリカの若い世代にもっとも影響力を持つ代弁者として、かってのU2やブルース・スプリングスティーンをはるかに上回るカリスマ的ヒーローとなるとは、想像もできなかった。

 日本で彼らの人気が今ひとつ盛り上がらないのは、来日を果していないことが大きいかったはず。そして彼らはやってきた。仙台、東京、大阪とわずか3回の公演ながら、彼らは素晴らしいライヴを繰り広げ、観客を興奮のルツボにたたき込んだ……と片付けられれば、話は簡単に済む。だがぼくはその演奏の素晴らしさに圧倒されながらも、3年前に見た彼らとどこかが違っているように思えてならなかった。

 彼らは実に生真面目なアーティストである。それはもっぱらヴォーカルのエディ・ヴェダーから発している。パール・ジャムの楽曲はメロディの起伏がある方ではないし、サウンドの変化にも乏しい。彼らがアメリカン・ロック最大の存在として君臨する理由は、歌詞と、それを伝えるエディ・ヴェダーのカリスマ性に依る。

 来日3公演をすべて見たのだが、もっとも印象に残ったのは初日の仙台だった。現在のパール・ジャムの巨大さを考えれば不釣り合いなほど小規模なホールで展開された彼らのライヴは、どうせ武道館公演のリハーサル代わりだろうとタカを括っていた関係者の度肝を抜くような、凄まじいテンションに満ちていた。ほとんどステージ上で動かず、歌以外に口を開くこともなく、マイク・スタンドにすがりつくように歌うエディから、目を離すことができない。照明も演出も何一つ凝ったところのないライヴなのに、息を呑むような緊張感が、2時間以上にも及ぶコンサートを終始貫く。

 だが重い。重すぎる。3年前に見た彼らはこうではなかった。まだエンタテインメントとしての明るさと、開放感があった。だが今回の彼らのライヴは、彼ら自身の内面の葛藤と煩悶が、痛々しいほど感じられた。これはもはやエンタテインメントと呼ぶたぐいのものではないし、単なるフラストレ-ションの発散でもない。繊細でナイ-ヴな心を持つひとりの若者が、過酷な現実という嵐の中でひとり震えながら、なにかを掴もうとして必死にもがいている、その姿だった。

 いささかキレイごとにすぎる見方だろうか。いや、そうではないはずだ。カート・コベインの死という出来事を経て作られた『ヴァイタロジー』というアルバムこそが、まさにそのような作品ではなかったか。果てしなく繰り返される自問自答。ロックとは何か,生きるとは何か。いつの間にか若者の代弁者に祭り上げられてしまった自分に対する疑問と、あまりに急激に変転していく現実への不安。『生命学』と題されたタイトルには、「人間としてのあるべき姿」という意味がこめられているという。ロックのスーパースターとして何ひとつ不自由ない生活を送っているのに、彼らは決して幸せなようには見えない。むしろ不安と疑問は増していくばかりなのだ。

 駆け出しの新進バンドとして全米のクラブをドサ回りしていた頃の彼らには、そんな苦しみはなかったろう。というより、ロックすること、演奏することがカタルシスとなり、彼らの内面のモヤモヤや苦しみを吹き飛ばしていたはずだ。だから当時のライヴは重くはあっても、どこかでスカッとしていた。だが今の彼らは、ロック・バンドとして筋を通せば通すほど、葛藤と煩悶が増すばかりなのだ。チケットマスターとの争いは、そのほんの一例にすぎない。そしてカート・コベインの前例を知った以上、彼らは意地でもその轍を踏むわけにはいかない。

 アーティストとは因果なものだ。そんなアーティストの苦しみが表現のリアリティとなり、受け手の心に深く食い込んでくる。ぼくたちはいわば、他人の苦しみを手を叩いて喜んで見ているに等しいのではないか。そんなことを考えながら、ぼくはパール・ジャムのライヴを見ていた。

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