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07/09/2006

01年フジロック前煽り

「SWITCH」01年8月号掲載。

 フジ・ロック・フェスティヴァルは今年ではや5回目の開催となる。日本で初の本格的野外ロック・フェスティヴァルとして立ち上げられてから、私はその試行錯誤のすべてを現場で体験してきた。

 嵐の中の開催となった天神山スキー場での第一回。吹き荒れる豪雨と強風に誰もが疲弊した1日目の深夜にやむなく中止が決定となり、その翌日の早朝、台風一過の荒れ果てた会場に立ちつくしたときの、なんともやるせない気分はいまもまざまざと記憶している。会場のあちこちに雨具や雨具代わりのレコード袋、衣類、バッグ、靴、毛布などが泥とともにゴミの山となってうち捨てられている。嵐の一晩をテントにくるまって過ごした子供たちが、ボロボロになった身体を寄せ合い、難民キャンプのようになった会場にわずかに備えられた屋台に並び、食べ物を求めている。それは、日本でもグラストンバリー・フェスティヴァルのような本格的野外フェスティヴァルをやりたい、定着させたいという主催者・スマッシュの日高正博氏はじめ関係者の理想と熱意が、巨大な現実の前にものの見事に砕け散った、まさにその光景だった。

 誰もが、フジ・ロック・フェスティヴァルの継続は困難になったと思ったし、スマッシュそのものの存続さえ危ぶむ声もあった。私も同様である。先月号本誌の日高氏のインタビューにもある通り、実際には興行保険をかけていたため金銭的な損失はほとんどなかったというが、問題は、スマッシュにとって大きな賭けだったにちがいないこの大型イヴェントの開催が惨めな失敗に終わったという精神的なショックだったはずだ。いち参加者にすぎない私は、当時の関係者の無力感や虚脱感については想像するしかない。だが、日本で初めての大型野外フェスティヴァルという試みが、この時点で大きな岐路にたったことは容易に察することができた。

 私はこの第一回フジ・ロック・フェスティヴァルについてのかなり批判的なリポートを『ミュージック・マガジン』誌97年9月号に書いた。そこで、このような大規模な野外フェスティヴァルを成功させるだけの土壌が、現状の日本にはない、という意味の指摘をした。規制の少ない自由で開放的な空気感のなかで、あくまでも自分自身の責任で楽しむという自立した姿勢が観客にはなかったし、そうした観客の自主性を信用しすぎて現場の仕切りに無頓着だった主催者にも大いに問題があった。一言で言えば、観客も主催者もあまりに経験や知識が不足していた。あの状況を乗り切るだけのノウハウやフットワークがなかった。

 だが救いもあった。滅多にない夏台風の襲来によるいきなりの極限状況が、晴天に恵まれつつがなく遂行されていたら顕在化しにくかったかもしれないさまざまな問題点を、洗いざらい明らかにしてしまったことだ。確かにこの手痛い失敗で、主催者も観客も大きな後退を余儀なくされた。そこから立ち直るのは容易ではないだろうが、なんとしてもこのまま引き下がるわけにはいかなかったし、批判的なリポートを書いた以上、私はその行く先を見届ける義務があった。おおげさに言えば、この「日本で初めての大型野外フェスティヴァル」がいかに日本という土地に根付いていくか、そのプロセスをつぶさに見つめていくという、ジャーナリストとしての使命感めいたものさえ感じていたのである。あの荒れ果てた会場の光景は、確かに失意と無力感の果てのどん底ではあったが、しかしどん底であるからこそ、そこには確実に希望があったはずなのだ。

 それから4年。紆余曲折はあったが、フジ・ロック・フェスティヴァルは着実に理想に近づいていった。二転三転の末、結局東京・豊洲に地を移しての第2回は、日高氏の述懐するようにフェスティヴァルとは言えない大型野外コンサートであり、開放的な自然の中での不自由さを楽しむというフジ・ロック本来の趣旨から外れてはいたが、大きな混乱もなく終了して、東京ベイ・サイドのレインボー・ブリッジとビル街のネオン・サインを遠くに見ながら音楽を楽しむ、という都市型イベントとして成功だったと言える。むしろ重要なのは一種のリハビリテーションとして、スタッフ・サイドに自信を取り戻させたことにあるかもしれない。この年から参加したボランティア団体の的確なゴミ処理も会場の雰囲気作りに大きな役割を果たした。

 そして苗場のスキー場に場所を移した第3回は、天候に恵まれたこともあり、主催者の理想がはじめて形として実現することになったと言えるだろう。「自然の中の不便さを楽しみ、アーティストのプレイだけでなくフェスティヴァル全体の雰囲気を満喫する、自由で開かれた空間」――私は先月号本誌で、そうフジ・ロックを評した。ただ多数のアーティストが野外で演奏する巨大コンサートというだけではない。フジの価値とは、素晴らしいアーティストの素晴らしい音楽というだけではない。

 「音楽だけでなく俺が思ってることは、お祭りだってこと。お祭りっていうのは何でもありだと。要するに空間を楽しむっていうのかな。コンサートっていうのは音楽を楽しむこと、ってはっきりしてる。で、もちろんこのフェスティバルの核も音楽なんだけど、その核を中心にして、もっといろんな要素がある。俺は音楽も映画も本もペインティングも芝居も、みんな同じだと思ってる。そういうところも含めて何かできないかなと」とは先月号本誌での日高氏の言葉である。

 会場にはいくつかのステージやクラブ・テントがある。そしてキャンプサイト、お化け屋敷やマッサージルームといった施設もある。世界中の料理を楽しめる屋台や、音楽以外のさまざまなアトラクションやキャンペーンを配したブースもある。それらすべてを存分に楽しんでこそのフジ・ロックであり、それらすべてが総合した空間が「フェスティヴァル」なのだ、と日高氏は主張する。

 ロープによる間仕切りがなく、自由に出入りできる天然のフロア。山の中の清涼とした空気と、冷たい川の水。無数に飛び交う蜻蛉。ステージからステージへ軽い汗を流しながら歩く山道。道すがら出会う友人たちの笑顔。冷えたビールの喉ごしの気持ちよさ。屋台のジャンクフードの味。芝生に寝っころがって見る夜空の星。ボランティアの尽力と、参加者の意識の向上もあって、ゴミのほとんどないきれいな会場。どこまでもピースフルで平穏な雰囲気。

 そうしたフジ・ロック独特のムードが、3回目にして実現したのである。いかに天候に恵まれたとはいえ、1年目のあの状況を知る者にとっては、まるで別世界に思えた。そして昨年おこなわれた第4回は、主催者側のノウハウがさらに蓄積され、観客の多くがフジ・ロックの本質を理解し、一定のルールの上で楽しもうという姿勢を持つようになってきた。フジの「不自由だが自由な空間」で、「自分の責任で楽しむ」という趣旨がより浸透して、さらに心地よいイヴェントとして完成度を高めていたのである。日高氏によれば、それでも当初思い描いていた構想に対してまだ実現度は70%ぐらいということである。

 そして21世紀最初の開催となるフジ・ロック・フェスティヴァルが、いよいよ7月最終週の週末3日間に渡っておこなわれる。

 グリーン・ステージ、ホワイト・ステージ、フィールド・オブ・ヘヴンという三つの野外ステージ、レッド・マーキー・テント(午前11時から夕方まではバンド演奏、21時から早朝5時まではDJによるパフォーマンスという2部構成)という構成は昨年と同じだが、さらにルーキー・ア・ゴー・ゴーという新進アーティストのみのステージを設ける。そして音楽以外にも、お化け屋敷、マッサージテント、ソーラー・パワー・アウンド・システム、自然保護キャンペーンブース、レストランなどを設置したアヴァロン・フィールド、さらにイギリスのロックンロール・サーカス、サーカス・オブ・ホラーが出演するザ・パレス・オブ・ワンダー、カジノ・テント、露天風呂つきのキャンプサイト、子供連れのためのキッズ・ランドなどまさに盛りだくさんな趣向が待っている。それでは日を追って出演アーティストなどを紹介していこう。

 まず26日(木)午後6時から前夜祭。地元の人たちを交えての盆踊り。花火大会、参加アーティストによる飛び入りライヴなどを予定している。また午後3時から6時までレッド・マーキー・テントをアマチュア・グループに開放する予定もある。

 27日(金)はいわば「UK・デイ」。目玉はオアシス、マニック・ストリート・プリーチャーズ、トラヴィスと、イギリスやヨーロッパのフェスティヴァルではヘッドライナー級のトップ・グループ三つが、グリーン・ステージの最後を飾るという豪華なラインナップである。ちなみに今年のレディング・フェスティヴァル(イギリス)のトリがマニックスとトラヴィスである。1年半ぶりの5度目の来日となるオアシスは、もちろんここで改めて説明するまでもないUK最高の人気グループで、日本では初の野外公演となる。ちなみにスマッシュとオアシスの縁は深く、日高氏は94年にオアシスがクリエイションと契約を交わす前にロンドンでライヴを見て、日本でやらないかと声をかけたという。クラブ・クアトロ・クラスの会場から始めて徐々にステップ・アップしていこうと話をしたらしいが、その集大成がこのフジの大舞台であるにちがいない。

 グリーン・ステージでは、昨年フジ・ロックでバンドとしての終止符を打ったブランキー・ジェット・シティの浅井健一が、シャーベッツを率いて戻ってくるのも注目だ。

 いっぽうホワイト・ステージは、新作『ブロウバック』を発表したばかりのトリッキー、モス・デフ、、ニトロ・マイクロフォン・アンダーグラウンド、MURO、EGO-WRAPPIN’、ラッパ我リヤとヒップホップ中心のラインナップ。一昨年のフジ・ロックでのヒプノティックで幻惑的なパフォーマンスが印象的だったトリッキーが、新作での明るく開放的な音楽性をどのように聴かせてくれるのか、個人的には楽しみだ。

 さらに注目はフィールド・オブ・ヘヴンだ。盛り上がりを見せる関西歌ものシーンの中核ラブクライ、進境著しいくるり、デンマークのゴア・トランスの雄SAIKO-PODと注目のアーティストが揃うが、興味深いのがミラクルヤング。シアター・ブルックの佐藤タイジと、パンク歌手にして芥川賞作家・町田康の組んだ新バンドである。ここ数年作家に専念していた町田の久々のバンドが、いきなりフジ・ロックの大舞台である。まるで音楽的な接点などなさそうな佐藤と町田が融合してなにが起きるのか。興味は尽きない。

 そして個人的にこの日の最大の目玉がV∞RE!!!!!!!DOMS aka BOREDOMS。もちろんあのボアダムズだが、今回はなんとオープンリールデッキ、ドラム5台にパーカッション2人、エレクトロニクスという超変則的な編成でのパフォーマンスである。新作の制作開始の報も伝えられる彼らが、2年ぶりのフジ・ロック参戦でどのようなステージを見せるのか。絶対に見逃せない。ほかにハスキング・ビー、セミソニック、フィーダー、ガーリングとイキのいい新進気鋭が登場するレッド・マーキー・テントも面白い。

 翌28日(土)は、いわば「アダルト・デイ」。40代50代のオトナたちが子供連れで参加できるようなラインナップを目指したという。保護者同伴の小学生以下の観客は入場料無料、さらにメリーゴーラウンドなどで楽しめるミニ遊園地や休憩用テントなどで構成されたキッズランドの設置も、親子2代でフェスティヴァルを楽しんでもらいたいという趣旨のあらわれだ。

 そしてその目玉となるのが、グリーン・ステージのとりとなるニール・ヤング。今年55歳となるが、そのエネルギッシュかつアグレッシヴな活動は依然衰えを見せていない。11年ぶりの来日がフジ・ロックの大舞台とは、最高のお膳立てだ。

 そしてニールよりやや世代が下になるが、30代以上のパンク/ニュー・ウエイヴ・ファンが狂喜乱舞しそうなアーティストがこの日に集結している。8年ぶりの新作発表を控え、16年ぶりの来日を果たすニュー・オーダー、英国ニュー・ウエイヴの象徴エコー&ザ・バニーメン、そしてニューヨーク・パンクの女王パティ・スミス。とくにニール、ニュー・オーダー、エコバニはそれぞれグリーン、ホワイト、レッド・マーキーのトリと、登場時間が重なっており、悩むところだ。なおニュー・オーダーの新作には解散したスマッシング・パンプキンズのビリー・コーガンが参加しており、フジ・ロックにも同行が噂されているが、これは原稿執筆時点では未確認。

 そしてアメリカ最高の女性シンガー・ソングライター、アラニス・モリセット、UKの若手人気バンド、ステレオフォニックスなどがグリーン・ステージに登場する。

 またこの日は昨年のフジ・ロックで圧倒的なパフォーマンスを見せフェスティヴァル全体でもハイライトとなったモグワイ(英)とROVO(日)も再登場する。とりわけ驚異的な傑作『SAI』で、従来のミニマルでトランシーなサウンドからジャズ・ロック~プログレッシヴ・ロック的なアプローチへと変化したROVOのライヴは必見だ。またライヴ・バンドとして加速度的に評価を高めつつある渋さ知らズオーケストラ、昨年のグリーン・ステージでの熱演が印象的だったソウル・フラワー・ユニオンが今年はソウル・フラワー・モノノケ・サミットとして登場するなど、フィールド・オブ・ヘヴンはこの日も充実している。

 そして29日(日)は「ラウド・ロック・デイ」である。エミネム、トゥール、システム・オブ・ア・ダウン、さらに日本のブラフマンと轡を並べたラインナップは、大暴れしたい子供たちの熱い期待に応えるものだろう。とりわけ新作『ラタララス』を発表したばかりのトゥールは、キング・クリムゾンにも比肩されるテクニカルでインテレクチュアルなプログレッシヴ・ロック的アプローチと、ヘヴィ・ロック・サウンドを融合した完璧な演奏と、カリスマ的なオーラを放つステージ・パフォーマンスが要注目だ。

 この日の個人的な注目はホワイト・ステージ。プロデューサー/ミュージシャンとしてだけでなく、最近はヴィジュアルなどトータル・アート・フォームのクリエイターとして活動するブライアン・イーノと、J・ピーター・シュワルムによる「ドロウン・フロム・ライフ」プロジェクトは、世界で2回限りのパフォーマンスとなるということだ。またブレイクビーツ・ミュージックの雄として活躍、自らのレーベル、ニンジャ・チューンでも先鋭的な活動を続けるコールド・カット。レディオヘッドが強く触発されたことで知られる音響テクノのオウテカは、レコード店の新人紹介の説明書きで「オウテカ系」と引き合いに出されるほどの広範な影響力を持っている。ブレイクビーツ・テクノの鬼才、トム・ジェンキンスンのスクエアプッシャー、電気グルーヴ脱退後初のライヴとなるまりんこと砂原良徳、昨年秋の屋内レイヴ・イヴェント「エレクトラグライド」での好演が印象的だったアンディ・ウエザオールのトゥー・ローン・スウォーズメン、心地よいレゲエ/ダブを聞かせるリトル・テンポなど、粒ぞろいのラインナップを揃える。

 ロン・セクスミス、アニー・デフランコから羅針盤まで、渋い歌ものを揃えたレッド・マーキー・テント、ホットハウス・フラワーズ、忌野清志郎ラフィータフィー、SION、キセルと通好みで固めたフィールド・オブ・ヘヴンも注目だ。そしてフェスティヴァルの大団円の深夜のレッド・マーキー・テントには、ウィルコ・ジョンソンなどが登場する「サンデイ・セッション」が朝までおこなわれる予定だ。

 なお羅針盤のリーダー、山本精一は初日にV∞RE!!!!!!!DOMSで、2日目にROVOでそれぞれ出演するので、フジ・ロックの3日間に出ずっぱりの、初めてのアーティストとなる。まさに第5回フジ・ロック・フェスティヴァルの「影の主役」と言えるかもしれない。

 このように多士済々なメンバーが一同に会したフジ・ロック・フェスティヴァル2001。人気最高峰のオアシス、11年ぶりのニール・ヤング、16年ぶりのニュー・オーダーと、話題性も十分な今回、これまでフェスティヴァル未体験だった新しいファンが訪れることも予想される。不意の天候急変に備えての雨具(傘は禁止されている)は必携だし、昼の日射病対策とともに、気温10度前後まで冷え込む夜の防寒対策も必要だ。ゴミのポイ捨てなどは論外として、フジ・ロックに細かい規制やこうるさい規則はない。ただしどんな不測の事態が起こっても個人の責任で対処すること。もしものときは来場者全員で助け合うこと。いわば社会人として当たり前のマナーを守ることで、フジ・ロックはよりいっそう楽しいイベントとなるにちがいない。

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