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07/09/2006

第7回フジロック(2003)

ミュージックマガジン2003年9月号掲載。

 雨・寒さ・泥道と三重苦に見舞われた今年のフジロック。それでもみな心得たもので、雨合羽に防水靴、長袖フリースと準備は万端で、大きな混乱もなく終わった。7回を積み重ねたスキルはこういうところにあらわれる。

 水はけの悪いぬかるんだ地面に座り込む気にはなれないし、汗をかかないためすぐトイレに行きたくなるのでビールをガブ飲みすることもない。結果、フジの楽しみ方のひとつである酔っぱらってゴロ寝したり座り込んでウダウダとおしゃべりしたりすることがなく、ひたすらドロドロの山道を往復してステージを目指す。一度着いてしまえば移動が面倒なのでひとつのステージをじっくり腰を据えて見ることになる。だから、いつになくアーティストのパフォーマンスに真剣に向かい合った気がした。つまりは「音楽イヴェントとしてのフジロック」を今年ほどまっとうに体験したことはない。7年も通いつめていままで何やってたんだと言われそうだが。

 とりわけ雨が激しかった初日は、悪コンディションにアーティストのモチベーションが逆に高められたのか、見たアクトはどれも秀逸だった。グリーン・ステージのトップ・バッターという意外な登場でわかせたミッシェル・ガン・エレファントのテンションの高さは圧倒的だったし、久々のライヴ、新作発表もご無沙汰でブランクの影響が懸念されたスチャダラパーは、逞しさを増し見事なスキルを示したラッピン、対照的に相変わらずふにゃふにゃした脱力MCで見事に健在ぶりをアピールしていた。大熱演のシアター・ブルック、2人になってからは最高のライヴを見せたアンダーワールドも魅力的だったが、この日の白眉はマイケル・フランティ。パフォーマーとしてもエンタテイナーとしても素晴らしい成長ぶりを見せ、弾力性に富んだバンド演奏とあいまって、音楽だけが持つコミュニケーションの力を感動的なまでに示していた。

 多少弱まったものの相変わらず雨がやまない2日目は、フジロック史上最高だった昨年3日目と同様の35000人を超える動員を記録した。フェス開催直前にチケットが売り切れとなり、一部で混乱もあったようだが、入場者数と天候の割にはおおむね平穏に過ぎたと言っていいだろう。場内の移動も思いのほかスムーズで、ここでも主催者と観客のスキル・アップが目立つ結果となった。ただ、以前はクリーンだった会場は、去年あたりからゴミも目立つようになり、今年はさらにひどかった。やはり観客増による会場環境の悪化とマナー低下は明らかだ。今後は開催期間を延ばすか、三日間通しのチケットのみ売るなど思い切った対策が必要となりそうである。

 閑話休題。まずはグリーン・ステージのトップ、ダーティ・ダズン・ブラス・バンドのファンキーでコクのある演奏を堪能してから、ホワイト・ステージ手前から続くボードウォークと言われる近道を通って、今年からフィールド・オブ・ヘヴンの先に新設されたオレンジ・コートに向かう。ジャズやワールド・ミュージックを中心としたラインナップというふれこみで、ぼくが昨年本誌で書いた要望がさっそく実現した形となったわけだが、実際に選ばれたメンツにいまひとつ不満が残ったことも確か。目当てだったデート・コース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデンは初登場だった昨年ほどのテンションはなく、水準の出来だった。そしてさしたる期待もせず臨んだアンスラックスのあまりのカッコ良さに仰天。ヘヴィ・メタル嫌いの多い本誌読者には縁がないだろうが、オールド・スクールなスラッシュ・メタルの精髄を、笑っちゃうほどのテンションと誠実さで押しまくったステージに、今回のフェス中もっとも燃えてしまったのである。ジョー・ジャクソンやパブリック・エネミーのカヴァーなどフジロックの客層を考慮したとおぼしい選曲には、コアなヘヴィ・メタル・ファンからは「速い曲が少ない」と不満が出ていたが、ぼくには十分すぎるほど。なんだか3日分のロック魂を1時間で燃やし尽くした気分だった。

 そして最後に見たビョーク。とんでもなくすごいライヴだった。まさにぶっちぎり。歌や演奏はもちろん、髪型、メイク、衣装、火花や炎、花火を使った舞台装置まで、なにもかもが規格外の、まさに「キチガイと紙一重」の世界。ありきたりな音楽、ありきたりな美意識、ありきたりな価値観を断固拒否するおそろしくストイックで鋼のような意志を感じさせる超絶的なパフォーマンスだった。5年前の東京でのフジ・ロック時には「可憐」という言葉がふさわしかったが、今回のビョークはもはや人間を超えた神の領域にいる、とさえ思ってしまったのである。弦8人+ハープ+マトモスの電子ノイズというサウンドには、期待したほどの新機軸はなかったものの、アーティスト・パワーのすさまじさをとことん思い知らされたのだった。

 3日目の早朝にまたも大雨が降りげんなりさせられたが、開演のころには晴れ間も見えるようになる。爽快な暑さには遠いが、そこそこ気温も上がり、ようやく野外フェスらしい開放感も感じられるようなってきた。別記事にも書いたが、この日トップに見たハシケンは、ライヴ・バンドとしてアブラの乗りきった状態にある素晴らしいライヴを見せた。3度目のフジ出演となるROVOも、いつもながらすさまじいテンションの演奏を聴かせたが、気になったのは観客の質。ぼくが見ていた前のほうは、クライマックスになるとハードコアのライヴ並みの激しいモッシュが始まり、落ち着いて陶酔できない。フジロックならではの光景だろうが、彼らの人気が高まるにつれ、これまでとは異質のファンも増えてきたということか。

 内橋和久gらをゲストに加えたルインズは相変わらずマイペース。すさまじい超絶技巧がまるで「生産的」な方向に向かわず、無駄遣いとしか思えないスポーツ的な無意味さに費やされているのが素晴らしい。そしてスティーヴ・ウインウッドは、予想をはるかに上回る素晴らしさ。ファンキーでオーガニックな、ニュアンスとグルーヴの塊のような演奏。淡々として、ときにシャイにも映る振る舞いのひとつひとつに気品が宿っている。トラフィック解散後は彼の良い聴き手とは言えなかったぼくだが、20年以上もの空白を惜しむには十分な、至福の1時間(短い!)だった。

 大団円は渋さ知らズ。大豆鼓ファームを含む150人編成(!)のライヴは、イケイケノリノリを期待して入れ込み気味の観客の気をそらすように、舞踏・歌謡・演劇などごった煮的日本土着のアングラ・パフォーマンスを次々と展開していく。いかにもこの人たちらしい「難易度」の高いものであり、いわばフジという場でいきなり渋さ上級者向けのパフォーマンスを全開してにわかファンを振り落としてしまったのだった。このヒネクレぶりがまさに渋さであり、おかげで開始当初は満員に近かったオレンジコートも終わるころには閑散としていたのが、最後まで残って堪能した者には痛快だった。

 こうして、03年のフジロックは終わった。まるで白昼夢のような3日間だった。数々の印象的なライヴがあった。古い友人との数年ぶりの再会もあった。今年もまたたっぷりと楽しんだ。だが一番ワクワクしたのは、フェスが始まる直前、悪化する一方の天候を懸念しながらも、だが開催を待ちわびる期待に満ちた一途な書き込みでたちまち埋まっていく関連BBSを眺めているときだった気もする。フェスに関わったすべての人たちの純情な思いが、そこにはもっとも濃厚に立ちこめていた。総勢200近いアーティストたちの熱演は、その追確認にすぎなかったのかもしれない。フェスから4日がたちすべてがパノラマのように遠くなった深夜の東京で、ぼくはそんな妄想じみた思いにとらわれている。ともあれ、出会ったすべての人に胸一杯の愛を。

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