さて、例の問題である。もちろんこんな規制、何があろうと絶対容認できるものではない。ましてぼくは「NEWSWAVE」というマニアックな輸入盤専門のミニコミあがりの人間である。この規制の問題点については、この記事からリンクしている各サイトをみれば、ほぼ100%理解できる。まともな感覚をもった音楽ファンなら、たとえ洋楽に関心がなくても、これがどんなに馬鹿げた暴挙であるかわかるはず。
藤川さんとのメールのやりとりで、先の記事に書いた、法案成立に向けロビー活動を積極的に展開している「某レコード会社の某氏」が判明した。音楽業界ではかなり有名な方で、名前だけは知っているが個人的にはまったく面識がない。個人的な会話の中、「ここだけの話」ということで出てきた名前なので信義上ここで実名を晒すわけにはいかないが、ヒントを挙げれば、外資系ではないが、かなり大手のレコード会社のトップにいる人だ。ぼく個人は仕事上も人脈上も、ほとんど縁がない会社である。この人のインタヴューが某サイトに載っているのだが、それを読むと、商売上の嗅覚は鋭いのかもしれないが音楽に対する愛情も、レコード会社の文化事業としての側面に対する理解もまったく欠如した、お金儲けしか興味のない人物であることがよくわかる。しかし、たとえ金儲けを第一に考えねばならない経営トップでも、ちゃんと音楽の現場を見ている人なら、まともなバランス感覚があるなら、この法案が良心的な音楽ファンにどれだけの反発と不信感を呼ぶか、ポピュラー音楽の状況をどれだけ荒廃させるか、わからないはずがない。世界中のさまざまな音楽をこれだけ気軽に手に入れることのできるのは日本だけだと言われるが、そういう状況が根底から破壊される可能性があるのだ。そんなことも理解できない人物に日本の音楽状況をめちゃくちゃにする権利などどこにもない。いっそ実名晒しちゃいましょうよ、藤川さん。
それからもうひとつ。レコード業界の流通に詳しい人なら誰でも知っていることだが、大手のレコード会社の輸入盤セクションは各大型チェーン店に対して、自社が日本盤発売しているCDの輸入盤を大量に、しかもきわめて安い価格で卸していて、おまけに国内盤同様、売れ残った商品の返品や交換を一定の範囲内で許していたりする。つまり大型店はデッドストックになる危険をある程度回避できるから、ただでさえ安い輸入盤を大量仕入れでさらに安く買い、安く売れるわけだ。いわば、国内盤よりはるかに安い輸入盤が大量に出回っている事態を自分で作っているのは、日本のレコード会社でもあるわけである。そんなレコード業界が、こんな理不尽な法案を通そうとしているのは、おそらく輸入盤より国内盤のほうが利益幅が大きいからだろう。
ちなみに自ら輸入盤の卸業務の会社や通販レコード店をやっているライターの石川真一さんによれば、多くの米国盤を最安値で売るアマゾンはレコード会社輸入部からあまり輸入盤を仕入れていないらしい。ついでに言えば、アマゾンは国内盤も、確か星光堂という卸の最大手から商品を仕入れており、メーカーとは直の取引がないはず(もしかしたら一部あるかも)。つまり日本のレコード会社とあまり直接の縁がなく、しかも輸入盤部を通じての利益ももたらさないのに安売りを続けるアマゾンはいわば目の上のタンコブなのだ。意図したかどうかは別としても、法案は結果的にアマゾン叩きにもなっているのかもしれない。
現在洋楽の日本盤CDは、安価な輸入盤に対抗するため、少しでも価格をさげ、日本先行で発売したり、日本独自のボーナス・トラックを追加したり、ライナーや対訳を充実させたりと言った努力をしている。そのままでは日本人にはなかなかわかりにくいような洋楽の魅力がきちんと日本で理解されるよう、雑誌やメディアに働きかけるなどさまざまに努力をしている洋楽担当者も多いだろう。だが今回の法案が可決され、洋楽輸入盤にも規制が適用されるということになると、ただでさえ再販価格維持制度で守られている日本のレコード業界はさらに無競争の状態に置かれることになって、そうした努力をしなくなる可能性がある。まさか急に値上げするような露骨な真似はしないと信じたいが、ボートラもライナーも対訳も要らないと思っている輸入盤購入者だけでなく、国内盤があれば多少の価格差があってもできるだけ国内盤を買うようにしているぼくのようなユーザーにも、今回の規制はきわめて大きな影響を及ぼす可能性がある。ライナーがなくなったら、仕事上でも困るしね、なんて(笑)。
ただ、今回の件に関しては、肝心のレコード会社側からの公式なコメントがないようだ。また輸入盤の取り扱い額の大きい大型レコード店の反応もよくわからない。大手メディアもこの問題には関心が薄く(音楽業界人及び音楽ファンが多く読んでいる朝日新聞は、この問題を手遅れになる前にいちはやく取り上げるべきと、声を大にして言っておく。あの読売でさえすでにやっているのだ)、法案がどういう状況に置かれているのか、実際に法案が成立しても、各社が、多くの洋楽ファンや大得意先である大型レコード店を敵に回してまでもそれを適用して自社ライセンスの輸入盤を規制するような措置を実際にとるのかどうか(もちろん一旦法案が成立してしまえば、あとは状況の変化に応じてなし崩し的に拡大解釈されていくのが通例だから、当面は適用する気がなくても油断できないが)、不透明な部分が多すぎる。情報が少なすぎるのだ。ネットをやる若い洋楽ファンなら多くがこの問題を知っているかもしれないが、世論を作るのは、そういう人たちではないだろうし、情報の飢餓状態にある状況は、いずれにしろ良くない。そのためにも、できるだけいろいろな人にこの問題について触れてもらいたいものだ。
この件に関してネット上で意見を表明している音楽業界人:
藤川毅
北中正和
土佐有明
森砂里詩
萩原健太
音楽業界人ではないが……
山形浩生
掲示板等での発言を除きます。ほかにもいらっしゃるようなら、ご一報ください。