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2004.06.09

■Walk,Don't Run

 旅の後半にひいた風邪がなかなか治らず、おかげで仕事の効率があがらない。留守にしていた10日間でめまぐるしく変化した状況にもついていけず、まるで浦島太郎である。PCを持っていったものの、メールスの宿は部屋に電話もないという田舎町。時間を見てネットカフェでチラチラと関係サイトを覗いていたとはいうものの、日本語入力は使えないから、ただ情報を見るだけ。その後のケルンやアムステルダムでも自分のPCではどうしてもネット接続できず、結局何もできなかった10日間だった。いかに自分がネットやメールに頼りきった生活をしていたか、よくわかった。でも久々の完全自腹の海外旅行、楽しかったです。

 メールスやROVOツアーの土産話は、いずれおいおい書くつもりだが、ひとまず山積みの仕事を片づける合間に、旅行中に考えていたことを。

 「政治に関わることを嫌うシニシズムが、僕個人の中でも、今回の経験を通じて、大きく後退した」と高橋健太郎さんは自身のブログで書かれている。実際ぼくなども、今回の件を通じて、高橋さんの(政治)運動家としての目を見張る才能──こんなことを書くと高橋さんに反発されそうだが──に驚かされてしまったわけだが、ぼくはぼくで、別の意味で音楽と政治の関わりについて考えさせられたりしている。

 たとえばザ・クラッシュやディスチャージ、レイジ・アゲンスト・ザ・マシーンやフェラ・クティ、リントン・クウエジ・ジョンスンやパブリック・エネミーでもいいが、そういうアーティストを語る際にぼくは、音楽と政治を切り離すことなどできるはずがない、音楽だけが政治や経済の動向と無縁でいられるはずがない、と言ってきた。だがそれは頭の中だけの理解に過ぎなかったのだと、今回ほど思い知らされたことはない。「好きな音楽を、自由に聴く」という、これまでぼくたちがごく当たり前のこととして享受してきた権利さえ、それを貫き通そうとすると、<政治>という怪物に真っ向からぶつかってしまうという現実は、したたかなショックだった。ぼくたちのあずかり知らぬところでごく一握りの人たちが大事なことを決めてしまうという政治の恐ろしさは、もちろん今回の輸入盤問題や、今年に入ってにわかに取り締まりが厳しくなっているという風営法だけのことではない、ということは、さすがに多くの人が気づき始めていると思う。どうせ何を言ってもムダ、何も変わりはしないというシニシズムや絶望感は、ただ権力側に都合のいい状況を作り出すだけなのだ。まず、知る。そして、怒る。その怒りを声に出す。そうすることでしか現実は変わらない。

 依然としてぼくには、政治に関わることへの抵抗感がある。今回の件で記者会見したり何人もの政治家に陳情に行ったり文化庁の役人とやりとりしたことは正直、苦痛以外のなにものでもなかった。だがそんな呑気なことでは、自分たちの守るべき唯一の、そして何より大事なものさえ守れないのだ、ということを、法案が成立してしまったいま、骨身に感じている。次は中古盤規制かもしれない、などと言われて、やっぱり黙っているわけにはいかないだろう。ぼくの人生の半分以上は好きな音楽を聴き、面白いレコードを探すことに費やされてきたんだから。

 今回の法案成立で、音楽ファンの間では大手レコード会社への不信感がかってないほど高まっている。不買運動などの動きもあるようだ。無理もないとは思う。だがぼくは今後も日本盤を買い続けるだろうし、レコード会社経由の仕事をやり続けるだろう。反対声明に賛同した音楽メディア関係者の多くが同じ気持ちのはずだ。それを矛盾とか言行不一致とは思わない。

 レコード会社から仕事を回してもらったりサンプル盤をもらったり(正確にいうと、「貸与」されているんですが)、あるいは取材旅行をセッティングしてもらったりするような連中は本当の意味のジャーナリストではないし、そんな連中にちゃんとした評論などできるはずがない、という意見がある。確かにレコード会社のお金でメシを食っているぼくたちは、はたから見れば体のいいパブリシストであって、レコード産業と一蓮托生の身なのかもしれない。

 だが、そんな「持ちつ持たれつ」の構造の中でも、それなりの筋の通し方はある。反対声明に賛同してくれた音楽メディア関係者の方々は、それぞれのやり方で自分なりの<筋>を通しているはずだ。レコード会社から便宜を受けてるからといって、自分のポリシーに反する、思ってもいないヨイショを書いたりするようなら、誰が見てもおかしい、誰の利益も生まない法案の可決を、その悪用を黙って見過ごすようなら、そのときこそほんとに批評の死滅じゃないか。レコード会社から便宜を受けていても、言うべきときは言う。音楽産業の生み出すお金で生計を立てていても、しかし、いや、だからこそ、よりよい業界になってほしいからこそ、苦言を呈する。それこそが、8のものを10とフレーム・アップするぐらい平気でやるぼく(たち)の、残されたほとんど最後の矜持というものだ。

 だからこれからも、ぼくは音楽業界にとどまり寄生しながら、あれこれ文句を言い続けると思う。ま、音楽業界のほうから「オマエはもうイラネ」と言われたらオシマイですが。そのときは有り金はたいてロック・バーでもやることにしますか。レコードだけは腐るほど、死ぬまでかかっても聴ききれないほどあるからね。

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