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2007.01.12

■超絶的な体験

Yg_full_system2

 少々古い話だが、去る6日に和田博巳さんのお宅にうかがったときの話などを。

 和田博巳さんは「ステレオサウンド」誌などで健筆をふるっておられるオーディオ評論家。音楽ファンには「はちみつぱい」のベーシストでプロデューサーというほうが通りがいいだろうか。ぼくは何回かお仕事をご一緒させていただいたり飲みにいったり親しくさせていただいている。今回の訪問の目的は和田さんのオーディオルームの見学である。

 和田さんはYGアコースティックスというイスラエルのオーディオ・メイカーのスピーカー、アナット・リファレンス・スタジオというシステムを所有しておられる。これはメイン・モジュールと言われる2ウエイ密閉型のスピーカーと、パッシヴ・サブ・ウーファーに分かれている。和田さんはメイン・モジュールのほうのみ所有しておられたが、年末になってついにパッシヴ・サブ・ウーファーのほうも購入され、ペアで600万円という超ド級システムを完成されたので、野々村文宏さん、鈴木茂さんとともにお年賀も兼ねて押しかけたわけである。

 アナット・リファレンス・スタジオのとんでもない音の良さは和田さんの文章からも十分察することができたが、いやはやこれはすごい。一番すごいと思ったのはジャズなどバンド演奏の空気感。クリアで明晰な音がするのは現代スピーカーとして当然として、奥行きのある音場感、文字通り目の前でバンドが演奏しているようなリアルさが圧倒的。まず和田さんおすすめのジャズのSACDなどを聞いていくが、あまりに音がいいので、音楽の内容も5割増しぐらいによく聞こえる。正直、音場感の再現はウチのシステムが一番苦手にしているところなので、システム全体の価格とグレードがちがいすぎるとはいえ、少々がっくりきてしまう。おそらくパッシヴ・サブ・ウーファーは、こういう微妙な空気感の再現にもっとも威力を発揮するはずだ。和田さんの話によればパッシヴ・サブ・ウーファーは50ヘルツ以下しか受け持たせておらず、通常のCDではそのあたりの帯域の低音はほとんど入っていない。だからかなりの音圧を入れても、見た目にはサブ・ウーファーが働いている印象がない。だが音全体のふわっとした余裕や空気感の形成に、確実に寄与しているはずだ。そのためだけに300万円超。ちょー贅沢な究極の世界である。

 和田さんのお宅は完全防音のリスニング・ルームで、部屋の広さは12畳ぐらいかな? もちろん調音は完璧だ。うちのリスニング・ルームも防音仕様だが、来たことのある人は知っている通り、かなり狭くて3人も入れば満員の狭い空間だ。システムのグレードの違いもさることながら、このエアヴォリュームの違いは決定的で、音楽がのびのびとストレスなく鳴っているのがよーくわかるのである。


 続いてぼくが持ってきたバトルズのアルバム(EP)を聞くが、こういう音場感というより、ひたすらダイレクトで硬質で打ち付けるような音圧感で聞かせるようなソースは、うちのシステムがもっとも得意とするところなので、さっきのジャズものなどよりはほんのわずか肉薄している気がする(あくまでも「気がする」というだけだが)。

 そして真のクライマックスは、続いてかけたコーネリアスの新作と、ニルヴァーナのリマスター・ベスト。とにかく、一般家庭では絶対にありえない、耳鳴りがするような超巨大音量で聴くコーネリアスと「Smells Like Teen Spirit」のとんでもない衝撃。和田さんも調子にのってどんどん音量をあげていく。ここはライヴハウスか?と思うほどの音圧だ。大音量フェチでは人後に落ちないぼくもさすがに少しヴォリュームを落としたほうがいいんじゃないかと思うが、和田さんは意に介さない。アナット・リファレンスで聴くニルヴァーナ、とんでもないですよ。以前某渋谷のハウス系クラブで聴いた「Smells Like Teen Spirit」もいい音だったけど、ロックの音じゃなかった(ハウスやテクノの音)。でもこれはロックの音です。ひえー

 ニルヴァーナが終わる。全員「すげー」というアホみたいな感想しか湧いてこない。気を取り直してさて次、と思うと、音が出ない。調べてみるとパワー・アンプが死んでいる。リンC4200という良質なアンプだが、見事にオシャカになってしまった……。やはりあの爆音に耐えられなかったか。あれはどう考えても一般家庭で鳴らす音じゃななかったもんなあ……

 じつはぼくには前科がある。まずは某オーディオ誌の試聴で、エラックというドイツのスピーカーのツイーターをぶっ飛ばした。それからウチのリスニングルームで、ギターウルフ/ストラグル・フォー・プライドのスプリット・シングルを爆音で聴いて、ツイーターを飛ばした。今でもウチのスピーカーのツイーターは死んだまま。修理品が届くまで、お店の好意で代替品のスピーカーを聴いている始末である。

 ヴォリュームをいじったのはぼくではなく和田さんだが、それでもぼくが関わっていることに違いはない。まして今回は個人の私物だ。二度ならず三度までも、しかもわざわざ他人の家のアンプをぶちこわしにきたのか……ひたすら恐縮、そして自己嫌悪。

 考えてみれば、コーネリアスを聴いているときから、なにか危うい、いやーな予感はしていたのだ。ふだんからこのソースを聴きこんでいる者にしかわからないかもしれない、綱渡りでもしているような、スピーカーのコーンが焦げているような、音像の奥の方が不気味な軋み音をあげて、断末魔の悲鳴をあげているような不気味な感触……
 「散る間際っていうのは本当に(ちょっとやばげな)いい音がするモンなのだな」と和田さんは書いておられたけど、正直、あの危うさは心臓に悪い……。はい、チキンなオイラです。

 ところが10分~15分ほどたって改めてスイッチを入れてみると、電源が入ったのである。どうやらあまりに過大な負担をアンプにかけすぎて発熱がすごくなって、一時的に保護回路が働いたらしい。さすがの和田さんもこんなけったいな体験は初めてのようだったが、原稿のネタにできますかねえ。笑い話で済んで良かったが、ともあれそのあとは少し音量を控えめにして楽しんだ。なかでもベッチ・カルバーリョ『すばらしき世界』のアナログの、これまた驚愕の音の良さが印象的だった。

 あまりにオーディオ体験が強烈だったので、そのあとのPS3によるブルーレイ・ディスク・フルHD・100インチスクリーンによる鑑賞は、正直あまり覚えていない(酔ってたしな!)。確かに画質はすごいと思ったけど、アナログ→CDや、VHS→(LD)→DVDのような決定的な使い勝手の向上がないと、画質や音質の少々のアップ程度では、なかなか次世代DVDは普及しにくいのではないか、とも思った(SACDやDVDオーディオのように)。

 そんなわけで新年早々、強烈としか言いようのない体験をさせていただいた。音楽好きなら、1回ぐらいこういう心臓に悪い体験をしておいたほうがいいかも。お招きいただいた和田さん、企画してくださった野々村さん、つきあってくれた鈴木さんには感謝。

 しかし我がウサギ小屋リスニング・ルームとの決定的な差を感じたことも確かである。たとえ小金をためてグレードの高いシステムを購入しても、今の部屋じゃまったくポテンシャルを活かせないことは明白である。となるとより広いリスニング・ルームを手に入れるしかないわけだが、そんなの絶対無理だよなー。こりゃ「東京タワー」みたいなベストセラー小説でも書いて一発当てるしかないか? でも両親は健在だしなー。

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